
先日、心臓リハビリに来られた患者さんとの会話の中で、冬場のお風呂に関する不安が話題に上がりました。
「お風呂は気持ちいいんやけど、冬場は脱衣所が寒くてね。心臓に悪くないかしら?」
お話を伺うと、以下のような状況がありました。
- ・リビングは暖房で暖かい
- ・脱衣所やトイレは暖房を使わず、短時間で済ませている
- ・熱めのお湯を好み、長時間つかる習慣がある
今回は、寒さが本格的になるこの時期に増えてくる“ヒートショック”について、私自身が日々の診療や会話の中で感じていることを中心にお伝えしたいと思っています。外気と室内・脱衣所との温度差があると、体にはどんな変化が起こりやすいのか。冬のお風呂で「なぜしんどさが出るのか」という背景について、できるだけ分かりやすくまとめています。
そのうえで、実際に入浴するときに気をつけたいポイントを、いつもの生活に近い形で整理しました。まずは、普段のお風呂時間を振り返るためのチェックリストから見てみてください。
【入浴時のチェックリスト】ふだんのお風呂時間を一度見直してみましょう
まずは、ふだんのお風呂の入り方を一度振り返るところから始めたいと思います。
以下の項目は、冬のお風呂で体に負担がかかりやすい状況をまとめたものです。

当てはまるものがいくつあるか、気軽にチェックしてみてください。
- ・脱衣所やトイレがかなり冷えている(暖房を使っていない)
- ・42℃以上の熱めのお湯を好んでいる
- ・お風呂あがりにふらつき・立ちくらみを感じることがある
- ・入浴前後に血圧を測る習慣がない
- ・食後すぐ、または飲酒後に入浴することがある
- ・体調が多少悪くても入浴は欠かさない
- ・一人暮らし、または家族に声をかけずに入浴している
- ・廊下、脱衣所が底冷えするがそのままにしている
複数当てはまるからといって“危険”というわけではありません。
ただ、寒さが強まる季節は体がびっくりしやすいので、少しだけ意識しておくと安心につながります。
【解説】ヒートショックとは?
冬のお風呂で起こりやすい“体の中の変化”を、できるだけ分かりやすくまとめました。専門用語は使わず、実際の体の反応に近い表現にしています。
◆ 急激な温度差が起こす血圧変動

冬場の入浴時に起こりやすい一連の変化:
- ・暖かい室内 から 冷えた脱衣所へ移動:血管収縮 → 血圧上昇
- ・冷えた状態から熱い湯へ入浴:血管拡張 → 血圧低下
この急激な変化は、体にとって大きな負担となり、以下のことが起こる可能性があります。
- ・心臓の血管が詰まる(心筋梗塞)
- ・脈が乱れる (不整脈[特に上室性・心室性ともに起こりうる])
- ・脳の血管にトラブルが起こる (脳卒中[脳出血・脳梗塞])
- ・意識を失って倒れてしまう (失神による溺水事故)
などにつながることがあります。 - 特に高齢者では、自律神経機能の低下や動脈硬化の進行により血圧調整が難しく、入浴関連事故のリスクが高まることが報告されています。
また、心疾患がなくても、
- ・高血圧
- ・糖尿病
- ・脂質異常症
- ・喫煙習慣
- ・肥満
といった生活習慣病がある場合、血圧変動の影響を受けやすくなります。
【生活上の留意点】入浴時の循環器負荷を減らすために
ここでは、循環器学的な観点から、リスクを低減する行動の例を挙げています。いずれも“推奨される環境条件”であり、強制する意図はありません。
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1. 脱衣所・浴室の温度管理
急激な温度差を避けるため、居室と脱衣所の温度差を小さくすることが重要です。小型暖房機器の使用も有効です。
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2. お湯の温度設定
循環器負荷の観点では、39〜40℃程度が望ましいとされています。過度な高温浴は血圧変動を助長します。
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3. 入浴時間の調整
10〜20分程度を目安とし、長時間の入浴は避けることでのぼせ・血圧低下を防ぎやすくなります。
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4. 立ちくらみ・ふらつきへの注意
入浴後はすぐに立ち上がらず、数十秒静止してから移動することで失神リスクが低減します。
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5. 食後・飲酒後の入浴は負荷増大につながる
食後1〜2時間以内、また飲酒後は血圧調整が不安定となりやすいため避けることが望ましいとされています。
【当院での支援】多職種が連携したサポート体制
ふくおかクリニックは小規模ながら、看護師・心臓リハビリスタッフ(理学療法士)・管理栄養士が在籍していることが特徴です。冬場の入浴に限らず、日常生活の中で感じる不安や疑問に対して多角的に対応できます。
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日常生活の状況を踏まえた看護師・リハビリスタッフとの相談
入浴環境、血圧変動、運動量、生活リズムなど、実際の生活背景に即して確認しながら助言を行います。
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入浴時の動悸・息苦しさ・胸部症状がある場合の評価
必要に応じて心電図などの検査を行うことが可能です。症状が繰り返す場合は早期の評価が有用です。
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管理栄養士との食事相談(特に冬〜年末年始)
おせち料理は塩分・糖分が多く、冬場の血圧上昇の一因となります。食事内容の調整や、体重管理の具体策について管理栄養士が対応します。

【まとめ】冬季入浴時の循環器リスクについて
冬季の入浴は心身を温める大切な日課である一方、急激な温度差が循環器系に負荷を与えることが知られています。
- ・脱衣所・浴室の温度管理
- ・適切な湯温設定
- ・入浴時間の調整
- ・入浴前後の体調変化の観察
- ・必要な場合の医療機関への相談
これらを踏まえることで、冬場でも安全に入浴を楽しむことが可能になります。
不安や疑問がある場合は、早めにお声かけいただけると適切に対応できます。ふくおかクリニックの多職種チームが、生活全体を含めたサポートを提供いたします。
【執筆者】看護師



















